排便は通常、結腸の蠕動運動と自律神経の働き(交感神経優位から副交感神経優位へ)によって準備され、随意筋である外肛門括約筋を意識的に緩めることで行われます。
便は結腸の蠕動運動で直腸に運ばれていきますが、便が貯留していくことによって、直腸の内圧が次第に高まっていきます。このとき便が漏れないように内肛門括約筋は収縮(交感神経優位)しています。
直腸の内圧が閾値に達すると、直腸壁の骨盤神経(感覚神経)からの刺激が仙髄の排便中枢に入り、反射的に骨盤神経(副交感神経)が刺激されます。その結果、直腸では便を肛門に送り出す運動が行われ、内肛門括約筋が弛緩します。同時に脊髄を介し脳へ便意が伝わります。排便は、これらの準備が整ったうえで腹圧をかけ、外肛門括約筋を緩めることでおこりますが、意識的に外肛門括約筋を収縮させることで、排便のタイミングをコントロールすることができます。
頚髄損傷では、便意は消失し(感覚麻痺)、外肛門括約筋をコントロールできなくなり、腹圧をかけることもできません(運動麻痺)。腸の運動に関しては副交感神経が一部をのぞき残存しているため、おおむね機能しているといえますが、通常と比べ低下しており、便の通過時間が2倍ほどかかるといわれています。しかしながら、直腸の内圧が高まると内肛門括約筋が弛緩する排便反射が維持されていれば、下剤や座薬等の刺激を利用した排便が有効になります。
障害の程度や状態、また生活様式など一様ではないので、自身に見合った排便方法を確立することが重要です。
損傷レベル | 移乗方法 | 排便場所 | 補助道具 |
---|---|---|---|
C4以上 | 全介助 | ベッド | |
C5 | 全介助 | ベッド | |
C5 | 直角移乗(一部介助) | 高床式トイレ | |
C6 | 直角移乗 | 高床式トイレ | 座薬挿入器 |
C6 | 側方移乗(一部介助or自立) | 車いすトイレ | 座薬挿入器 |
C7 | 側方移乗 | 車いすトイレ | 座薬挿入器 |
C8 | 側方移乗 | 車いすトイレ |
脊髄を損傷すると、排便は受傷前のように都度状況をふまえてコントロールすることが不可能なため、計画的におこなうことになります。そのためには規則正しい食事や生活のサイクル、適度な運動が重要です。
食事は便の状態や腸内環境に影響を与えます。とくに海藻や野菜、果物に多く含まれる食物繊維は、積極的に摂るのがよいといわれています。水溶性食物繊維は便を軟らかくし、善玉菌のエサとなり腸内環境を整えます。不溶性食物繊維は便のかさを増し有害物質の排出を促します。乳酸菌やオリゴ糖も腸内環境を改善するといわれています。また水分摂取量も便の硬さに影響しますが、排尿との兼ね合いもあり、考慮が必要です。
可食部100gあたりの食物繊維量(g)
食品 | 総食物繊維量 | 水溶性 | 不溶性 |
---|---|---|---|
焼きのり | 36.0 | - | - |
カットわかめ(乾) | 35.4 | - | - |
ライ麦粉 | 12.9 | 4.7 | 8.2 |
ほうれん草(ゆで) | 3.6 | 0.6 | 3.0 |
キャベツ(ゆで) | 2.0 | 0.5 | 1.5 |
サニーレタス(生) | 2.0 | 0.6 | 1.4 |
ドライトマト | 21.7 | 6.4 | 15.3 |
アボガド(生) | 5.6 | 1.7 | 3.9 |
ごぼう(ゆで) | 6.1 | 2.7 | 3.4 |
京にんじん | 4.3 | 2.0 | 2.3 |
乾しいたけ(ゆで) | 6.7 | 0.5 | 6.2 |
あらげきくらげ(乾) | 79.5 | 6.3 | 73.2 |
あんず(乾) | 9.8 | 4.3 | 5.5 |
ドライマンゴー | 6.4 | 2.8 | 3.6 |
ブルーベリー(乾) | 17.6 | 3.0 | 14.6 |
抹茶 | 38.5 | 6.6 | 31.9 |
ピュアココア | 23.9 | 5.6 | 18.3 |
青汁(ケール) | 28.0 | 12.8 | 15.2 |
カレー粉 | 36.9 | 6.5 | 30.4 |
アーモンド(いり) | 11.1 | 1.1 | 10.0 |
いりごま | 12.6 | 2.5 | 10.1 |
凍みこんにゃく(ゆで) | 15.5 | 0.2 | 15.3 |
干し芋 | 5.9 | 2.4 | 3.5 |
糸引き納豆 | 6.7 | 2.3 | 4.4 |
食事だけでは便が適度な硬さにならないのであれば、酸化マグネシウムなどの便を軟らかくする下剤を日常的に使用し、便の硬さを調節します。
結腸の蠕動運動は食後活発になるため、排便の時間は食後が望ましいといわれています。排便の周期は個々の状況や生活にも因りますが、ストレスのない自身にあった方法とサイクルを採用することが重要です。
一般名 | 商品名 | 説明 | 効果発現時間(h) |
---|---|---|---|
酸化マグネシウム | マグミット、カマ | 便の水分を増やし軟らかくする | 8~10 |
センノシド | プルゼニド、センノシド錠 | 腸を刺激し蠕動を促す。習慣性あり。 | 8~10 |
ピコスルファート ナトリウム | ラキソベロン | 腸を刺激し蠕動を促す。習慣性が少ない。 | 7~12 |
ビサコジル | コーラック | 腸を刺激し蠕動を促す。習慣性が少ない。 | 6~11 |
排便は便が直腸に下りてこないと起こらないため、必要であれば排便の時間に合わせて結腸を刺激する下剤を服用します。直腸まで便が下りてきたら、レシカルボン座薬か指を肛門から入れ直腸を刺激し、排便反射を誘発し排便をおこします。指は手袋をはめワセリンなどの潤滑剤を塗り、直腸を傷つけないように刺激します。レシカルボン座薬は炭酸ガスを発生させることで直腸の内圧を高め、結腸の蠕動運動を亢進させ、排便反射を誘発します。このときに外肛門括約筋が反射的に弛緩することで排便がおこります。
座薬を利用した排便反射
座薬を利用した排便反射
排便に適した姿勢をとる、下腹部をマッサージする、または下腹部をたたくといった動作が排便をより促進することがあります。直腸と肛門の角度は、恥骨直腸筋が収縮している立位より弛緩する座位でより鈍角となり、前傾姿勢をとるとさらに直腸筋が緩んで180度に近づき、便の排出がスムーズになります。
自身で座薬の挿入が困難な場合は、座薬挿入器を用いることでこれが可能になることがあります。座薬挿入器はⅬ字型のバーに取り付けるものや、手に装着するものなどタイプが複数ありますが使いやすいものを選びます。また座薬挿入時に肛門の位置を確認するためにカメラを利用するという選択肢もあります。市販の夜間撮影が可能な無線の小型防犯カメラを、防水対策を施したうえで便器に取り付け、スマートホンをモニターとして、簡単に実装することができます。
排便姿勢と直腸の角度
排便姿勢と直腸の角度
参考文献