頚髄損傷についての基礎知識
脊髄は脳とともに中枢神経を構成し、脳と身体の各部位との情報伝達を司る器官です。
脊髄を損傷すると脳と身体との連絡が断たれるため運動や感覚、その他さまざまな機能が障害されますが、損傷個所によって障害の程度は異なります。
脊髄は脳の側から順に、頚髄(Cervical1~8)、胸髄(Thoroacic1~12)、腰髄(Lumbar1~5)、仙髄(Sacral1~5
)といい、頚髄が損傷することを頚髄損傷といいます。たとえばC6損傷といえばC7以下に麻痺(C6までの機能は残存)があるということを意味します。脊髄損傷は一般に、損傷レベルが高位であるほど障害は重くなります。
損傷箇所以下に運動・感覚機能が少しでも残っている場合を不全損傷、そうでない場合を完全損傷といいます。
脊髄損傷では完全、不全損傷をより細かく分類した尺度が存在します。自身の障害の分類を正確に理解することは、リハビリ時に医師やセラピストとコミュニケーションを取るうえでも重要です。
A | 完全麻痺 | 損傷高位以下の運動知覚完全麻痺 |
---|---|---|
B | 知覚のみ | 運動完全麻痺で、知覚のみある程度保存 |
C | 運動不全 | 損傷高位以下の筋力は少しあるが、実用性がない |
D | 運動あり | 損傷高位以下の筋力の実用性がある。補助具の要否に関わらず歩行可能 |
E | 回復 | 筋力弱化なく、知覚障害なく、括約筋障害なし、反射の異常はあってもよい |
A | 完全 | S4~S5の知覚・運動ともに完全麻痺 |
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B | 不全 | S4~S5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存 |
C | 不全 | 神経学的レベルより下位に運動機能は残存しているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満 |
D | 不全 | 神経学的レベルより下位に運動機能は残存しており、主要筋群の少なくとも半分以上が筋力3以上 |
E | 正常 | 運動知覚ともに正常 |
神経は脳と脊髄からなる中枢神経と、身体のすみずみに分布している末梢神経とに大別することができます。
末梢神経には体性神経と自律神経とがあり、体性神経は運動神経と感覚神経とに分けられ、自律神経は交感神経と副交感神経とに分けられます。
脊髄を損傷するとこれらの末梢神経(運動神経・感覚神経・自律神経)が司る様々な機能が障害されます。
脳から身体の各部位の筋肉への指令は、脳の運動野から脊髄を通り運動神経を経て伝えられます。
脊髄を損傷すると、損傷個所以下へはこの指令は伝わらず、随意筋(=意識的に動かすことのできる筋肉)を動かすことができなくなるため、運動機能が麻痺します。頚髄損傷では一般に上肢以下の運動機能が消失します。呼吸に関わる筋肉も動かすことができなくなるため、肺活量が受傷前に比して低下します。
熱い、冷たいといった温冷覚や、痛覚、触覚といった感覚は、身体の各部位から感覚神経を経て脊髄に入り脳の感覚野へと伝えられます。
脊髄を損傷すると、損傷個所以下の神経が支配する領域の感覚が消失します。頚髄損傷では上肢以下の感覚が麻痺します。
自律神経は循環や呼吸、消化、排せつ、生殖など生命を維持するために必要な機能を、自律的に(=人が意識することなく)司る神経です。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経はすべて脊髄(T1~L3)を通り、副交感神経は脊髄の一部(S2~S4)と脳神経を介して分布しています。
交感神経は身体を活動的な状態にする一方で、副交感神経は身体を安静な状態にし、両者は拮抗しています。ほとんどの臓器は交感神経と副交感神経とに二重に支配されていますが、脊髄を損傷するとこの両者のバランスがくずれ、さまざまな機能が障害されます。
頚髄損傷ではすべての交感神経と副交感神経の一部(S2~S4)が麻痺します。排せつや性機能が障害され、発汗がなくなり、体温や血圧の調節も正常に機能しなくなります。
また第6胸髄(T6)以上の損傷では自律神経過反射という合併症が起こりやすいといわれています。
参考文献