尿を貯める(蓄尿)、あるいは尿を出す(排尿)ためには膀胱と尿道とが協調して機能する必要があります。これには骨盤神経(副交感神経、感覚神経)、下腹神経(交感神経)、そして陰部神経(運動神経)が関わっており、いずれも脊髄を介して脳にある排尿中枢に制御されています。
膀胱に尿が貯まっていく間、交感神経優位の膀胱(膀胱排尿筋)は弛緩しており、許容量まで大きくなっていきます。このとき膀胱の出口にある内尿道括約筋(交感神経優位)と外尿道括約筋は収縮しており、意識せずとも尿が漏れないようになっています。許容量を超えると、骨盤神経(感覚神経)から脊髄を介して脳へ尿意が伝えられます。
排尿時は、副交感神経優位となり膀胱(膀胱排尿筋)は収縮し、内尿道括約筋は自律的に弛緩します。そして随意筋である外尿道括約筋を意識的に弛緩させることで排尿がおこります。
頚髄損傷では脳との経路が断たれているため、排尿中枢の制御を失い、尿意も消失します。また外尿道括約筋を意識的に収縮することも弛緩することもできなくなります。したがって通常の蓄尿、排尿は不可能となり、残存機能に応じた対応(排尿管理)が必要になります。
脊髄損傷の排尿障害には過活動膀胱と弛緩膀胱の二つの類型がありますが、頚髄損傷では過活動膀胱がみられます。過活動膀胱は膀胱が収縮する傾向にあり、反射的に排尿がおこったり、膀胱が委縮したりします。
C5以上 | 留置カテーテル、膀胱瘻、反射排尿(尿失禁をオムツや収尿器で回収) |
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C6 | 自己導尿、留置カテーテル、膀胱瘻 |
C7以下 | 自己導尿 |
手を消毒し尿道からカテーテルを入れて尿を排出します。C6レベルで約半数、C7以下ではほぼ可能といわれています。
自己導尿をするとカテーテルについた細菌が膀胱に入りますが、一日に数回おこないその都度膀胱を空にすることで、細菌の増殖を防ぐことができます。脊髄損傷では自己導尿がもっとも安全で優れている排尿方法といわれています。
頚髄損傷では膀胱に尿が過度にたまると膀胱が収縮し始める過活動膀胱があり、失禁や膀胱の変形の原因となります。膀胱の容量と尿量を考慮した水分摂取と適切なタイミングで自己導尿を行うことで、膀胱に負担をかけない排尿管理が可能となります。
カテーテルを長期間留置するのは尿道炎、膀胱の萎縮、膀胱結石その他のリスクを伴います。またカテーテルが詰まる、抜けるといったトラブルや、カテーテルを留置していることによって行動が制限されるといった点を考慮すると、膀胱瘻のほうがより安全であるということができます。
下腹部に穴をあけ直接膀胱にカテーテルを入れる、外科的処置を伴う方法です。
留置カテーテルと比較すると、尿道を介さないため尿失禁もなく清潔を保ちやすい、行動を束縛されないという利点があります。ただし定期的なカテーテルの交換や、膀胱の萎縮や結石などのリスクは留置カテーテルと変わりません。
頚髄損傷では感覚が麻痺しているため尿失禁に気がつかず、皮膚がかぶれることがあり、衛生面だけでなく褥瘡予防の観点からも注意が必要です。日ごろから皮膚の状況を気にかけておくことはもちろん、場合によっては、オムツやパッドなどで予め対応をしておくことも必要となります。
頚髄損傷者は自律神経の麻痺により膀胱が正常に機能しませんが、交感神経を刺激する、または副交感神経が優位になるのをブロックする薬物療法が有効な場合もあります。抗コリン薬による膀胱収縮の抑制や、β3作動薬による膀胱容量の増大などがこれにあたります。抗コリン薬は口が渇く、目がかすむ、または便秘などの副作用が起こりやすいといわれています。
β3作動薬と抗コリン薬のはたらき
β3作動薬と抗コリン薬のはたらき
参考文献